ドラマ「それってパクリじゃないですか?」第9話~完璧上司の涙~(ネタバレあり)~先使用権じゃなかった
第9話
人気イラストレーターとの著作権を巡るいざこざ。社運をかけたプロジェクトが「特許出願しない戦略」により窮地に追い込まれる。最終的には冒認出願の可能性が…
水10のドラマ(日テレ)
先週に引き続き、日テレのドラマ「それってパクリじゃないですか?」を見ました。第9話です。前回の感想は、以下のURLで記載しました。もし興味あればご覧ください。
第9話「完璧上司の涙」
第9話のタイトルは、「完璧上司の涙」です。オープニングは、「月夜野ドリンク」が社運をかけた目玉商品『カメレオンティー』で使用しているロゴが著作権違反と訴えられているところから始まります。著作権を有するイラストレーターは、SNSをやっているインフルエンサーで、「月夜野ドリンク」が行っている改変が著作者の意図とは反するもので心外だと発信しました。悪評が広まりかけたところに、イラストレーターが「月夜野ドリンク」に乗り込んでくるのですが、主人公亜季が誠心誠意対応することにより、自分の誤解であったとわかり、逆に『カメレオンティー』の拡散に寄与してくれます。
一難去ったところで、今度は、競合の「ハッピースマイル」から『カメレオンティー』は特許権侵害だという警告書が届きます。誰もまねできないから敢えて特許出願しないでおこうという戦略をとった「月夜野ドリンク」に対して、同じような発明を「ハッピースマイル」が出していたことを知ります。しかも、3か月前に出願され、スーパー早期審査を経て、特許権になってしまっているということ。
特許出願をしないという戦略が完全に裏目にでた結果となってしまい、その提案を行った上司の北脇は、責任を感じてしまいます。亜季たち知財部員は、全身全霊で特許権の無効化を図るため、先行技術文献を探そうとします。同時に知財部は、開発部門にお願いして、特許出願より先に実施の準備をしていなかったか、確認してもらうようにお願いします。いわゆる「先使用権」の有無の確認を行います。しかしながら、先行技術文献探しも先使用権もありませんでした。北脇の特許出願をしないという戦略は、完全に敗北しました。北脇は涙します。
知財部部長の熊井及び亜季は、2度目の警告を送ってきた「ハッピースマイル」と穏便にことを収めるために話し合いに向かいます。話し合いの中で、亜季は、互いに商品を発明できなくてつらいですねという言うと、「ハッピースマイル」の知財部長の田所が競合の発売を阻止するのも知財の仕事と発言します。その言葉に熊井は激怒します。熊井は、発売中止を取り下げる! 訴訟になっても良いと啖呵を切ってしまいます。熊井は、話し合いの後、啖呵を切ってしまったことを猛省し、会社にいる社長などに報告し、あわてて帰っていきます。
一人取り残された亜季は、「ハッピースマイル」の社屋内で、「月夜野ドリンク」の同僚の彼女と思われる「さーちゃん」を目撃します。しかもこの「さーちゃん」が今回の特許権の発明者である「篠山瑞生」だったことが判明します。ここで第9話は終了します。
https://www.ntv.co.jp/sorepaku/story/09.html
感想
第9話のオープニングは、著作権侵害の問題でドラマ始まって15分くらいの時間を割いていました。結局、著作者の勘違いという落ちなんですが、「ここいる?」と思いました。主人公亜季が自身も絵を描く人で、著作者の感情に寄り添うことであっさり解決します。このあっさり感がちょっと気になってしまいました。著作権も重要な問題で、今流行りのSNSのインフルエンサーのことも取り上げて一つストーリーを作って欲しかったです。あっさりしすぎていると思いました。全10回でまとめなきゃいけない連ドラの制限なのでしょうか。少し残念でした。
開始15分くらいでオープニングテーマがかかったあとの特許侵害の話は、とてもシリアスなモードに入りました。上司の北脇の「特許出願しない戦略」が完全に崩れた話です。通常取らない戦略でしょうし、『はは~ん、ここは特許法第79条の先使用権ですね。「事業の準備」=「即時実施の意図が客観的に認識される態様・程度において表明されていること」ですね』と思っていたら、先使用権の調査もあっさり触れられただけで、先使用権もNG。
(先使用による通常実施権)
特許法第79条
第七十九条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
どうなるのかなぁと思って観ていると、対抗策を見つけられず、最終的には、上司の北脇が涙するという形になります。なるほど、ドラマタイトル通りかぁと思いました。今まで完璧だった北脇が崩れます。
そこで次に舞台に出てきたのが知財部部長の熊井です。いつも穏やかだった熊井が訴訟元の「ハッピースマイル」で大声を出して啖呵を切ることになります。ここら辺をみたときは、日テレの木10でなく、TBSの日曜9時枠(日曜劇場)で放送すべき作品だったと思いました。さすが下町ロケットを手掛けた脚本家さんです。そして、言い放った後に反省して、ロビーの椅子に崩れ落ちるところも、どこか日曜劇場っぽい感覚がよぎりました。やはり演出が面白い。
最後の最後で、「さーちゃん」が現れます。風雲急を告げるという感じで最終回に向かって盛り上がっていく感じでした。そして、第1話に続いて、冒認出願っぽい展開に。『また冒認出願なのか』と思いました。やはり知財と言えば「冒認出願」ですよね。今年の弁理士試験の論文試験のテーマは、「冒認出願」ですかね。最終回を期待したいと思います。
閑話
「ハッピースマイル」の特許権が「スーパー早期審査」で特許されていることも注目しちゃいました。特許出願は2023年3月30日、出願審査の請求は同日。登録日は2023年6月27日、公報発行日は2023年7月4日。えっ、7月4日? これって未来の話だったのかと思いました。ハッピースマイルの住所は渋谷区恵比寿6丁目、もちろん存在しない地名ですが、恵比寿3丁目の特許事務所に勤めている者としては、なぜかハッピースマイルの住所に親近感を覚えました。
あと、やはり映像がきれいだと思います。「月夜野ドリンク」を含むロケ地、出演者の衣装、背景に映る置物含めすべてきれい。カット割りとかも上手。「月夜野ドリンク」社屋の素朴な感じと、競合の「ハッピースマイル」のビルの先進的な感じとのコントラスト、どれも素晴らしい描き方だと思います。こんな優れた作品がどうして低視聴率なんでしょう。ドラマで取り扱うテーマの「知財」が地味なのでしょうか… うーん、もっと流行っても良いのに、残念。そして、もう最終回になってしまいます。亜季・北脇ロスになるという感じではないですが、「月夜野ドリンク」社屋ロスになるかもしれません。
まとめ
ドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第9話を観終わりました。やっぱり最後は「冒認出願」かぁと思いつつ、最終回を楽しみにしたいと思います。